2011年6月24日金曜日

23andMe - 10万人を突破 遺伝子テストビジネスとその問題

Genetic Testing というサービスがあります。 
数年前からアメリカやヨーロッパで流行り出し、サービス内容は、
  1. お客はオンラインでキットを購入し
  2. 送られてきたキットを用いて、口腔内を特殊なへらでこすったり、チューブの中につばを入れ、
  3. キットを送り返す
  4. Genetic Testing会社は、マイクロアレイを使ってSNPジェノタイピングを行い、
  5. その結果を元に独自アルゴリズムで特定の疾患のリスクや、薬の副作用反応、先祖の系統、などを計算し、
  6. お客はWebで自分のデータを参照する

という流れらしい。(上の絵は23andMeのサイトから)
らしい、と言ったのは、私はまだ実際にこのサービスを購入して試したことがないからです。

主なTesting会社は、23andMe、deCODEme、Navigenics, Pathway Genomics などがあります。

これらの会社は、今まではSNPアレイでジェノタイピングをしていましたが、今後、Complete Genomics社のような、パーソナルゲノムの時代になると、当然、アレイからゲノムへとシフトしていくのではないでしょうか?

これらGenetic Testingの会社が提供するサービスで、お客が得る情報は主に、
  1. 遺伝的な祖先
  2. 特定疾患(癌や糖尿病など)に将来罹るリスク
  3. 薬(抗がん剤など)に対する副作用のリスク
  4. マーカー遺伝子、Mutationのあるなし
  5. これらの情報をソーシャルネットワークを使って他人と共有(23andMeのビジネスモデル)
  6. あるいは遺伝専門家のカウンセリング(deCODEme, Navigenicsのビジネスモデル)
23andMeのビジネスモデルはユニークで、自分の遺伝情報を積極的に公開し、(もちろんプライバシーは守られますが)ソーシャルネットワーク上で「つながる」ということです。
そのお客さんが先日10万人を突破したそうです。 記事はこちら
創業者の一人のAnne Wojcickiは、Google創業者の一人のSergey Brinの妻なのは有名です。
Googleがバックにあれば、将来が楽しみです。

一方、deCODE社やNavigenics社のように、専門家といつでもコンタクトして遺伝カウンセリングが受けられるサービスを売りにしている会社もあります。

この辺の歴史は、The $1,000 Genome: The Revolution in DNA Sequencing and the New Era of Personalized Medicineという本に詳しく書いてあります。 興味のある方はぜひ。



さて、遺伝子診断について、特定疾患に将来罹るリスク、というのは、実際いろいろな議論を呼んでいます。
2009年のNature に、"An agenda for personalized medicine" という記事があり、23andMeとNavigenicsの2社のサービスを5人が受けて結果を比較しています。

これらの会社は、今までのGWASなどから得られた様々な疾患リスクマーカーを元に、罹患者と健常人との比較で相対リスクを計算しています。
これに集団の平均罹患リスクとの掛け算をして、絶対リスクを出しています。
あなたの疾患Aに対する相対リスクが1.5で、疾患Aは集団の10%が罹患するものなら、あなたは1.5x10% = 15% の確率で将来罹患するでしょう。というものです。

先の記事によると、
同じ疾患マーカーを用いたケースでは、疾患のオッズ比(相対リスク)が2社の結果ともほぼ同じ(r=0.98)でした。 しかし、マーカーが異なる時はその限りではありません。
例えばpsoriasis (乾癬)について、被験者の一人は、23andMeで相対リスク4.02だったのに対し、Navigenicsでは1.25でした。3倍の差は大きいです。

これは使うマーカーの種類によるところが大きいのですが、会社では独自にマーカーの選別を行っており、それが3倍の差を生むのです。

また、集団の罹患リスクというものも、会社によって求め方に差があり、Navigenics社は性別を、23andMe社は年齢を、パラメータに入れて計算しているそうです。

ところでプラットフォームについても、NavigenicsはTaqManアレイ、23andMeはIlluminaアレイを使っていて、プローブやSNPの種類も異なります。
ひとつの会社でサービスを受けた時はどうでしょう。
マーカー選別のバイアスは無視して、結果を受け取り、Webで見たとします。

例えば、将来、心筋梗塞にかかる絶対リスクが60%あったとわかって、あなたはそれをどう受け取るでしょうか?

40%大丈夫と安心する?
60%もあるのかと心配する?
脂っこいものを控えて食生活を改善しようと思う?
軽い運動を始めてみる?
別の会社のテストを試してみる?

そして数ヵ月後、Webサイトが更新されて、そこには、「新しい疾患マーカーが発見されました!」 というニュースを見るのです。
その新しい疾患マーカーを入れてリスクを再計算した結果、あなたの心筋梗塞リスクは30%に下がりました! おめでとうございます!」 と。

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