数百塩基も読めるロングリードは、未知の配列決定にも良く使われます。
de novo のシーケンスですね。
以前、de novo Transcriptome を話題にしましたが、リファレンスが未知の生物で、転写産物配列を決定したい場合、ロングリードの454が、真っ先に使うシーケンサーの候補に挙げられるでしょう。
もちろんショートリードのペアエンドで読む、ということも可能です。
しかし、長く読めるということは、未知の配列決定において非常に大きなアドバンテージですので、454を選ぶ方は多いのです。
ゲノムではなく、転写産物を読む場合、Isoformの存在が気になります。
スプライシングのバリアントを見たい場合、やっぱりロングリードが有利でしょうか。
実は、リファレンス未知の生物のTranscriptomeを行っている研究は、結構あります。
論文になっているものだけでも、昨年紹介した、ほかにも、
Coral larval (サンゴ): Meyer et al. BMC Genomics 10, 219 (2009).
Eucalyptus grandis (グランディスユーカリ): Novaes et al. BMC Genomics 9, 312 (2008).
Sarcophaga crassipalpis (ニクバエ) : Hahn et al. BMC Genomics 10, 234 (2009).
Populus trichocarpa (ブラックコットンウツド): Geraldes et al. Mol.Ecol.Resour 11, 81 (2011).
なんかがあるようです。 (全部は読んでいませんが)
454のリードは一般的には、シーケンサーの機械に付属しているアセンブラー、Newblerでアセンブルすることが多いと思います。
でも、Newbler以外にも、ロングリードをアセンブルできるアセンブラーはいくつかあるんですよ。
そこで、454のリードをアセンブルできるアセンブラーを比較した論文を紹介します。
Kumar et al. Comparing de novo assemblers for 454 transcriptome data. BMC Genomics 11, 571 (2010).
この論文は2010年に出されていますから、今年は各ソフトもバージョンアップして、論文投稿時とは若干状況が違っていると思いますが、参考になると思います。
比較しているアセンブラーは、
- Newbler 2.3
- Newbler 2.5
- CAP3
- CLC Assembly Cell 3.0
- MIRA 3.0
- SeqMan NGen 2.1
結論からいうと、Newbler 2.5が最も良いとのこと。
「454のシーケンスメーカーが作っているんだから当たり前だろ!」
私も思わず突っ込みましたが、ほかにも面白いことが書いてあるかと。
アルゴリズムの違いとして重要なところは、
CLCはde Bruijn graphを、その他の5つはOverlap-Layout-Consensus (OLC) を使っていること。
de Bruijn graphはVelvetやABySSといったアセンブラーでも使われています。
de Bruijn graphの特徴は、リードをk-merという決められた長さの塩基ブロックに切り、この部分の重なりをもとに、アセンブルをします。
k-mer = 31なら31塩基の重なりを見て、リード同士をつなげていきます。
k-merの範囲でのみ重なり具合を見るんですね。 本当はショートリードの、たくさんカバレージがあるデータに向いています。
一方OLCはクラシカルな方法?で、ペアワイズアライメントを元にしています。
より慎重に伸長していくのですね。
もちろん、6つのアセンブラーはそれぞれ、計算アルゴリズムを工夫しているので、結果はちがうのですが。
この論文では、彼らは線虫の一種をサンプルに、Roche 454 FLX を使って de novo Transcriptome をやっていました。
アダプタートリムした 741,387本のリード、約2億塩基のデータを、先の6つのアセンブラーでアセンブルしています。
最も速くアセンブルが終わったのは、CLCで4分、次がNewbler 2.5の45分。 一番遅いのがMIRAの3日。
1kb以上の長さのContigが一番多くできたのは、Newbler 2.5で7,661本、次がNewbler 2.3の6,320本。 一番少ないのはCLCの4,174本。
全Contigの合計塩基数は、一番多いのがSeqManの2,136万塩基、次がMIRAの2,134万塩基、3位はNewbler2.5の2,007万塩基。 最も少ないのはNewbler 2.5の1,446万塩基。
(詳細は同論文のTable4を参照)
Contigの合計塩基数でNewblerのバージョン2.5と2.3で成績が全然違うのにはびっくりします。
2,007万塩基と1,446万塩基ですからねえ。
6つのアセンブラーでできたContigをそれぞれBLATして、相似性・非相似性を調べ、新規配列がどれだけ作られたか、を彼らは次に見ています。
結果、MIRAとNewbler2.5は、より多くの(長い)ContigをCLCやCAP3より作ったが、その余分の配列は特に新規の配列ではなかった。 曰く、MIRAとNewbler2.5のContigには冗長性があるのではないか、と。
CLCのcontigは最も冗長性が低かったらしい。 ということは余分な配列は作らなかった。
「待てよ、それって良いことなのか? TranscriptomeではIsoformはつきもの。」
繰り返しですが、
de Burijn graph は高カバレージの大量リードアセンブルに向いています。 なぜならアセンブルがめっちゃ速いから。
OLCは低カバレージのアセンブルに向いています。 なぜなら正確だけど、ペアワイズアライメントなので計算量がかかるから。
私の経験でも、CLCの de Burijn graph アセンブラーは他と比べて速いです。
でも、速いがゆえに、犠牲にしていることがあります。
- アセンブルに使われたリードの情報(どのリードがどのContig形成に用いられたか等の情報)は持たない。 他のアセンブラーではACEファイルというものを持つようです。
- k-mer は最大でも31です。 これはCLCの設定です。 31塩基は、ショートリードには向いているかもしれませんが、400塩基を超すようなロングリードでは短いですし、結果、Contigが断片化してしまうことがあります。
- Isoformの認識は失われる。 CLCのde Burijn graphの宿命です。 Contigが途中から枝分かれするようなとき、「枝」は別のContigとされます。 これを修正しているアルゴリズムは別途紹介します。
現在、MiSeqやPGMに代表されるように、より多くの、ロングリードが出てくるようになってきています。 OLCアルゴリズムでは今後、計算速度が大きな壁になるでしょう。
ちなみにこの論文では、64bit Linuxの、普通のワークステーションレベルのPCを使っていました。
さて、同じ de Bruijn graph でも、Isoformを見つけよう! パラログを認識しよう!というコンセプトのアセンブラーが最近出てきました。
454のようなロングリードではなく、ショートリード用ですが、Trinityというものです。
http://trinityrnaseq.sourceforge.net/
最近使い始めたばかりですので、このツールについてはまたの機会に。
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